誕生日プレゼント|一生忘れられない思い出

6年前に亡くなった母は、最後になった誕生日を入院中に迎えました。

退院のめどはまったくたっていませんでしたし、高齢でもあり、先生からは「最善は尽くしますが、退院のお約束は残念ながらできません」と言われていました。

私たち家族は、最後になるかもしれない母の誕生日をどうやって病院でお祝いしたらいいか、頭を悩ませていました。

プレゼントといっても、食べ物はNGですし、病院にずっといるのですから、おしゃれをするといってもごく限られてしまいます。

家族でいろいろ相談し、車椅子で病院内や近所を散歩するときに着られるカーディガンと、母が好きなバラの花を贈ることにしました。

どちらも私の妻と弟の妻にまかせました。女性の好みはやはり女性でないとわからないと考えたからです。

「当日は家族が病院に集まって、そのプレゼントを渡そう。みんなが顔をそろえるのが、母は一番喜ぶだろうから」ということで相談がまとまりました。

ところが、当日の2日前になって、主治医の先生に長男である私が呼ばれたのです。いったい何事だろうと、緊張しながら先生のところへいきました。

すると先生はにこにこ笑っているではありませんか。そして、「あさってはお母さんの誕生日ですよね。今、お母さんの容態はかなり安定していますから、明日から1泊2日で、一時帰宅なさったらどうですか?」

夢にも思っていなかった話です。先生のおもいやりに、私は思わず涙ぐみそうになってしまいました。

もちろん、そのご厚意に甘えさせていただくことにしました。母には先生から、外泊の話をしてもらいました。

母は話を聞くと、先生の手をにぎって、なきべそをかいたのです。母にとって、私たちが用意したカーディガンや花よりも、

その先生の人情が最高の誕生日プレゼントになったことでしょう。

私たち家族にとっても一生忘れられない思い出になりました。

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